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自称小説サイト管理人七貴の、書評とだらだらとした日常を送り続けるブログ。
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『東京タワー』読了。

東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~
リリー・フランキー

扶桑社 2005-06-28
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最近は読んでおきたいと思った小説があっというまに映画やドラマになってしまう。
なので、後々ゆっくりと読もうと思っていたのに、映画が後悔される前に、ドラマが放送される前に読んでしまおうと、結構あせることになってしまう。

去年の『姑獲鳥(うぶめ)の夏』や、今年の『ダヴィンチ・コード』映画化決定と聞いてから、映画の情報に耳をふさぎつつ、必死に読んだ覚えがある。

『東京タワー』も少し前にほかのリリー・フランキーの著作と共に姉に借りたのだが、ゆっくり読もうと積んでいたところに、今月ドラマ化との情報。ちょっと、気が進まない部分もあったのだが、時間があったので今日読んでしまった。

先ほど読み終えて、感想をいざ書こうと思ったところ、29日のドラマは放送延期とのこと。例の事件の影響で。
……こうなるとがんばって読んだのに、少し悔しい気もする。


さて、だいぶ前置きが長くなりましたが、感想を。


イラストレーターで、エッセイストで、コラムニストで小説家で、そのほかいろいろやっているリリー・フランキーと、彼のオカンとオトンを描いた自叙伝的作品……

……いや、なんかしっくり来ないな。
この作品はリリー・フランキーが見つめ、見届けた“オカン”であり、少しだけ“オトン”の話であり……確かな“絆”の話……だと思う。

東京に出て、夢破れて故郷に帰った父、オトン。
育った地に居続けることができず、東京に出た息子、ボク。
故郷を失い、東京の息子の下に身を寄せ、最後には東京タワーの元で逝った母、オカン。

“ボク”から見たボクとオカンとオトンの日々を、ユーモアを交えながらも、静かに見つめ直し、目を背けることなく、丁寧に書き綴っている。

3人が夜の病室で見た東京タワーのシーンが心に残っている。
別の人生を歩んできて、どこかずれていて重なり合うことのなかった親子3人が、手鏡に映った東京タワーを見つめている。
その一瞬だけは、3人にとっての確かな繋がりがあった。
本当に素晴らしい文章だった。

話が少しずれるが、私は本や映画で泣きたくないと思うタチです。
それは、泣ける小説特集だとか、泣ける映画特集だとかで、「泣きたいから泣く」という日本人の姿勢にちょっと違和感を感じるところがあるからでして。
いや、小説や映画それ自体を否定する気は無くてですね、ただ、「泣きたいから感動するものを求める」っていうのは違うだろうと。
感動というのは、したいからするものじゃないだろう、抑えようと思っても抑えられない感情こそ感動だろうと。
まあ、青臭くそう思っているわけなのですが。

……ですが、『東京タワー』には泣かされました。
先の展開は読めるのだから、冷静に読もう、泣くものかと意地を張っていたのだけど、でも抑えられませんでした。
最後の7,80ページくらいは、嗚咽しつつ、ページを繰り、さらに進むと、涙が止まらなくて数行読むと視界が霞んでしまい、涙を拭いて、鼻をかみ、また涙を拭いて、読み進み……と、大変な状態でした。

ここまで本読んで泣いたのは、しばらく記憶に無いくらい。

この作品の前半は、淡々と、時には他人事のように冷静に自身やオカンのことを語っている。
しかし、後半にいくにつれて、その場面に近づくにつれて、著者の書いていて抑えられなくなっていく感情が文章にあふれ出してくる。

オカンはどう感じてたんだろう、何を思ってたんだろう――そんな自問が繰り返し現れるようになり、会話文だけではなく、字の文にも感極まって方言が混じるようになる。オカンに対して想いをあふれさせながら、それでも冷静に語ろうとする“ボク”に、私も感情のブレーキが利かなくなってしまった。

誰しも、親という存在には、感謝と愛情と、疎ましさと、さまざまに入り混じった感情があると思う。

それを解きほぐすように丁寧に書き上げたからこそ、この本は読む人の心に響くのだと思う。

誰にだってオカンがいる子どもなのだから。


この作品は正直、客観的な書評ができない。ギブアップです。
少しだけ、親に素直になろうと思いました。
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