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自称小説サイト管理人七貴の、書評とだらだらとした日常を送り続けるブログ。
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タイトルが超有名なこの作品。
このタイトルは一度聞くとどうしても聞き返したくなる不思議な魅力がある。この問いかけに何の意味があるのか、どうしても手に取りたくなるではないか。
パロディなんかでも良く使われるネタであるし、SFの傑作といわれるだけに、夏への扉に続いて読んでみたかった作品でもある。


アンドロイドは電気羊の夢を見るか?アンドロイドは電気羊の夢を見るか?
フィリップ・K・ディック 浅倉 久志

早川書房 1977-03
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舞台は核戦争後の地球。多くの人類は地球を離れ、アンドロイドを召使にしている。残った者たちは、火星への移住を夢み、核の灰に怯えながら暮らしている。彼らの最上の贅沢は生きた【本物の】生き物を買うことであった。

主人公はバウンティ・ハンターのリック。地球に紛れ込むアンドロイドたちを見つけるため、尋問によるテストを行い、レーザー銃で招かれざる客を始末している。自分の稼ぎでは本物の生き物など買えず、そっくりに動く電気羊で我慢していたリックに思わぬ獲物の情報が飛び込む。

火星を脱走した8体の最新型アンドロイドがリックの管轄にやってきているというのである。


8体のまったく人間と見分けの付かない最新型アンドロイドを追うバウンティ・ハンターというあらすじならば、当然ハリウッドの典型的なSFアクションを思い描きそうなものだが(というか、私はそういう話だと思っていたのだが)、ディックはそうは書かない。

感情を持つように行動するアンドロイドと、人間の違いとは何か、という問いを徹底的に書いている。

アンドロイドを判定するためにかけられる感情移入度テスト、本当にくだらない質問でありながら、それによって人間とアンドロイドは分けられている。
最新型アンドロイドを見分ける方法がここまでアナログな手法によるものであることには現代社旗へのディックの皮肉を感じ取ることが出来る。
バウンティハンターのリックや、彼と知り合うフィルですら、自分がアンドロイドであり、記憶が捏造であることを疑わざるを得ない。



正直に言ってしまえば、読後感ははじめ良いとは言いがたいものだった。
期待していたバトルもなく、後味の悪い結末と、意味深なラストシーンが残る。
このラストシーンの意味は何なのだろうか。何の決着なのだろうかそれを考えて悶々とした。

しかし、無関係とも思えた一つ一つのピース……
「感情移入」の象徴であるマーサ教、永遠にバカ話を続けるバスターフレンドリーのテレビショー、自分を人間と信じていたアンドロイドレイチェル、精神能力テスト不合格者の哀れなる特殊者(スペシャル)イジドア、そして、電気羊。

その全ての存在と配置の意味に気づいた時、この作品は真の姿を見せる。

断片的で歪なピースを組み合わせて作られた世界はしかし、ディックの手により確かに一つの世界を構築していたのだ。一切の無駄なく。

決して爽快な展開ではないかもしれないが、読む価値を与えられた本である。


そして、最後にはタイトルに戻ってくる。

「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」
読み終わっていれば、まさにこの一文なのだ。
これしかないとまでいえる、凝縮された一文。

そこに私は感動した。





余談だが、少女型アンドロイドのレイチェルにはドキドキしてしまった。
すでにクールなアンドロイド少女はディックが完成させていたのだね。
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