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タイムスリップを題材にしたミステリ。
図書館で借りたのでハードカバー版だが、集英社から文庫版も出ている。
異邦人―fusion 西澤 保彦 集英社 2001-10 売り上げランキング : 370506 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
以下、ネタばれなし
その日は父が実家近くの砂浜で不審な死を遂げる3日前だった。
その父の死をきっかけに姉や母の人生は狂ってしまうことを知っている影二は何とかして歴史を変えようとするのだが……。
時間ループや、父の死を未然に防ごうとする設定など、西澤初期の傑作『七回死んだ男』を思い起こさせる。
父の不審な死の謎については、設定を生かした感嘆させられる真相がある。ミステリとしては、七回死んだ男に比べ、少々小粒なネタ明かしではあるけれども、そこまでに至る展開や伏線のおかげで面白く読めた。
この手の時間ものの常として、タイムパラドックスや平行世界などの設定にはいろいろな突込みや批判ができるが、その解釈については鷹揚に構えたい。
この主人公のタイムスリップ(あるいはループ)は中々おもしろい使い方をしていると思う。
この『異邦人』にはレズビアンの姉と、その23年前の恋人であるバイセクシュアルの少女、季里子が出てくる。主人公は23年前にタイムスリップし、早熟で大人びた季里子の助力を得る中で、ようやく同性愛者の姉を理解するという描写がある。
本作は2001年の刊行だが、西澤保彦は98年の『スコッチ・ゲーム』以降、同性愛者を題材とした諸作を出すようになった。
その路線は『異邦人』の前年、『なつこ、孤島に囚われ。』に始まるなつこシリーズに結集していくのだが、察するにこの人は女性化願望があるのではないかなと思うところがある。
先日書評した、『黄金色の祈り』は自身の半生をモデルにした作品だったが、自分の分身ともいえる主人公に性欲の対象になるかならないかで女性を判断するような軽薄で差別的な男として露悪的に描いている。これは、逆に穿った見方をすれば、自身の男性性に対して嫌悪感を抱いていると指摘できるのではないだろうか。
本作『異邦人』の中でも、主人公は自分が女性であったら、姉に愛されたのにと述懐する描写がある。こういった女性に対する憧れは、自身の男性性への嫌悪と共に、女性化して女性に愛されたいという意識に根ざしているように思う。
そう考えていくと、西澤の人気シリーズ、タックシリーズにおいて、主人公匠千暁が、どんどんキャラクターが中性化されて男性性を失っていく過程で男性嫌いで元レズビアンというトラウマを持つ高瀬千帆と共感していくというシリーズ展開に通じる部分があって、興味深い。
タックシリーズにおけるつ二人の関係についてはまた、別の機会に考察したいと思っている。
話がずれたが、本作の女性の同性愛について主人公が共感していく過程が、人を選ぶ部分であることは確かだ。人によっては少し衝撃的でもあるし、刺激的ともいえるし、嫌悪感を抱く人もいるかもしれない。
いわゆる少女小説の百合ものみたいな世界ではなく、あくまでも女性と女性の恋愛についての肉体性を伴った解釈である。
そんな中で、生々しさを感じさせない季里子のキャラクターがこの小説をさわやかなものにしている。
華奢で幼さの残る身体つきの14歳のバイセクシュアルの少女は、驚くほどの知性と成熟した人格を併せ持ち、そのアンバランスさがコケティッシュな魅力を感じさせる。季里子が主人公に迫る蠱惑的な描写になんともドキドキしてしまった。
真相は意外なものだが、歪んだ家族が再生され、姉との新しい関係が描かれたラストは読後感が良い。終わりがよいことは大切だ。
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面白い話が出来るほど特異な人生も送っておりません。
二十台の男。弱小小説サイトの管理人です。
何かの縁です。どうかよろしく。
ア
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