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自称小説サイト管理人七貴の、書評とだらだらとした日常を送り続けるブログ。
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道後温泉で宿泊したホテルは4泊した中で最も良いホテルに泊まった。

と、いうよりは、他のホテルを節約したといったほうが正しいだろうか。
1泊目、3泊目はビジネスホテルで、2泊目の桂浜も国民宿舎だったのでそんなに高いわけではなかった。

さて、そんなわけで1泊目のビジネスホテルの3倍高い(1泊目=4800円)道後温泉のホテルの部屋(1人料金でダブルルームでした)には行き届いた設備と備品が当然のようにあった。

手持ち無沙汰であさっているうちに見つけたのがダイソーで100円で売っている青空文庫の『坊っちゃん』。

以前に読んだことのある本だけれども、本の舞台である松山、道後温泉で出会えたことがうれしくて、ついつい読み始めてしまった。

坊っちゃん坊っちゃん
夏目 漱石

角川書店 1955-01
売り上げランキング : 554823

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ちなみに私の持っているのは上記の角川版。漱石の解説、年譜が充実している。
ダイソーの100円文庫は装丁こそチープだが、カラー写真があり、欄外に注釈が載っていて読みやすいので、侮れないものになっている。
他、いくつか版元があるが、もちろん内容は同じなので、装丁やおまけで好みのものを選ぶと良い。


以下、書評。大いに話の筋に触れています。

「親譲りの無鉄砲で子どものときから損ばかりしている。」という書き出しで始まる『坊っちゃん』。

日本人ならば、たいていの人が知っているだろう名著である。

話の筋は単純明快。
中学校の教師として松山に赴任することになった江戸っ子の主人公が、豪放磊落な数学教師山嵐とともに、卑劣な教頭赤シャツを懲らしめる。

文庫にして150ページも無い話で、終わりもさわやかなので、漱石の入門書としては最適。

無鉄砲で単純でしかし、一本筋の通った主人公「坊っちゃん」は誰しもこうあれたらと思う快漢であるし、他、坊っちゃんがあだ名を付ける松山中学校の教師たちはどれもこれも強烈な個性が勢ぞろいしていて、時代の移り変わった今も面白く読める。時代が変わっても人をひきつけて止まないからこそ古典と呼ばれるのだろう。

特に山嵐と赤シャツは、その風貌性格合わせて坊っちゃんよりも印象が強い。


実に数年ぶりに坊っちゃんを読んだが、初読のときとはまた違った感触があり、面白かった。

もちろん、それは宿泊していた道後温泉がこの物語の舞台であったことが大きいと思う。
道後温泉や、路面電車も当然出てくる。松山市内の地図と見比べつつ、地名をつき合わせて坊っちゃんの歩いた道を想うのも非常に楽しかった。

でも、読めば分かるのだけど、漱石は松山をほめてない。
田舎で東京に並ぶものは何も無い、生徒も街の人々もどうにも合わないそんな漱石の印象がありありと表されている。
ほめたのは道後温泉ぐらいなものだ。

しかし、今の松山ではどこもかしこも『坊っちゃん』だ。坊っちゃん団子、漱石ビール、坊っちゃん列車、マドンナバス……。
漱石とこの小説がいかに全国的に愛され、松山の知名度を上げたかが分かる。

最初に読んだときは、坊っちゃんの快活さに好感を持ったが、大学生になった今では、坊っちゃんの脇にいる登場人物たちの心情が気になってくる。

生徒たちから信望の厚い山嵐。彼は坊っちゃんに最初どのような印象を抱いたのだろうか。また、仲たがいした時はどう思っていただろう。赤シャツとの因縁の始まりは何だっただろうか。そして、彼は物語の後、松山を離れ、どのような生涯を送ったのだろう。あの豪放さは変わらないに違いない。

マドンナを奪われ、赤シャツの計略により延岡に転勤させられてしまったうらなり。坊っちゃん、山嵐から聖人君子と評された彼の、延岡でのその後も気になる。
彼はこの物語で一番いい人で、それ故に最大の被害者である。
物語の途中で退場してしまうので、うらなりは坊っちゃんたちの活躍も赤シャツの懲らしめられた姿も知らないのだ。
物語での出番は少ないが、マドンナを奪われてから失意の転勤までの彼の心情を考えながら読むと、軽快な坊っちゃんの話に違う一面が見えてくる。

そして、坊っちゃんの(というより山嵐の)ライバル赤シャツ。
彼のインテリ趣味は田舎の松山にあってかなり浮いている。嫌味ながらも妙におかしい。

赤シャツの動静を注意深く読んでいくと、赤シャツはかなり狡猾に物事を進めていることが分かる。
坊っちゃんの単純な性格を見抜き、巧みに仲間に引き込もうとし、同じタイプの山嵐にけしかけ諍いを起こさせる。
うらなりや坊っちゃんを手玉に取り、丸め込む。
彼は最後、芸者遊びをしてきたとことろを寝ずに見張っていた坊っちゃんと山嵐に見つかってしまうが、それだって、かなり用心して他の者に悟られないように出入りしていたことが伺える。

赤シャツのその後も気になる。彼は坊っちゃんたちに懲らしめられた後でも、結局は教頭職のままであっただろうし、マドンナに芸者遊びはばれないままだろう。少しは懲りたと思いたいが。

そして、私が二度目を読んで、一番気になったのはマドンナだった。
マドンナ―――彼女は『坊っちゃん』の登場人物であることは良く知られているが、実のところ坊っちゃんと会ったのはたった一回。セリフは一度もしゃべっていない。
(それなのに、マドンナは松山では、ヒロインの扱いでキャラクターが作られている)


うらなりの家が傾くとすぐに見切りをつけ、あの高慢でインテリで嫌味な赤シャツのもとに行ったマドンナ。
私は坊っちゃんの登場人物の中で赤シャツよりもマドンナのほうがいけ好かないし、得体の知れない部分があって怖いと思う。

最後の最後まで、彼女の真意は明かされない。

二人の男を惑わした“マドンナ”
……彼女はインテリの赤シャツを選んだ愚女だろうか、それとも将来性の無いうらなりに見切りをつけた賢女だろうか。

それとも……


追記、「清がいかに萌えるメイドであるか」についてなら原稿用紙30枚でも書きたいが、それについてはもえきよを見てもらえば十分だと思う。
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