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自称小説サイト管理人七貴の、書評とだらだらとした日常を送り続けるブログ。
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四国旅行の途中移動時間や待ち時間に読んでいた一冊。

病牀六尺病牀六尺
正岡 子規

岩波書店 1984-07
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愛媛松山を周る上で、やはり、子規の本は絶対に読んでおかなければ失礼になるだろうと思って買った本。

文語体になれるまでは読み進めるのが大変だったが、慣れてくるとその深さに引き付けられる。



愛媛の排出した不世出の文学者、正岡子規が、死の直前まで新聞にて連載していた随筆の単行本。

病牀六尺とは正岡子規の過ごしていた一辺六尺(約1.8m)四方の自室のことである。当時不治の病であった結核をわずらった子規は、その進行によってついに病床から出ることができなくなり、その命尽きるまでこの六尺の部屋で過ごした。

しかし、本書の冒頭、「病牀六尺」の連載を始めるにいたり、子規はこう始めている――「病床六尺、これが我が世界である。しかもこの六尺の病床が余には広すぎるのである。」
芭蕉は、「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」との句を残したが、子規の精神もまた、病床の身や六尺の部屋に収まらず、外の世界に遊離し、駆け巡り続けたのである。

病床の住人となってしまった子規であったが、毎日毎日休むことなく、書き留められたその内容は、非常に多彩で多岐にわたる。

日本芸術談義から、西洋の美術論、文学論、教育論と、明治の文学者の一人として、持論を展開する一方、四季の移り変わりや、日々の食事、世間の流行、友人との四方山話、趣味の写生など、病床にあっても、日々充実したひと時を過ごしていたことが伺える。

その身が動かなくなろうと、口と筆が動く限り句を読み、寄せられる俳句を評し、常に研究を続けたことも垣間見える。
彼は体が動かなくなろうと、最後まで明治の文学者であった。


だが、子規の体は確実に蝕まれていく。
麻痺剤を服用しなければ心休まらず、時に恥ずかしげも無く弱音を吐き、苦痛から、周囲の者に当たりちらす、将来を悲観し、しかし、あきらめの境地に至ることもできず、ただただ、彼はもがき続けた。

連載39回目、子規は体の痛みに遂に叫ぶ。
「誰かこの苦を助けてくれるものはあるまいか、誰かこの苦を助けてくれるものはあるまいか。」
連載40回目、悲痛な叫びで終わった前回を振り返り、それ以上嘆くことなく、子規は言う、俳句談、文学談、宗教、美術、理化、農芸、百般、何でもいい、興味が無いものは無い、枕元に来て何か珍しい話をしてくれれば、余は多少苦から救われたことを謝すると。

苦しみながらたどり着いた100回目、もはや病牀六尺は子規にとって、生きた軌跡であり、生そのものであった。まだ遠き200回目を想い、つぶやく「果たして病人の眼中に梅の花が咲くであらうか」

だが、梅の花を見ることは叶わず、子規の病床は悪化、連載も短い文を書くのがやっとになり、遂に127回目連載は永遠に中断し、9月19日、遂に力尽きる。(意図したわけではなく、この日にこの文が書きあがったのは少し運命的なものを感じる)

読み終わったとき、子規が死に至る5ヶ月あまりの濃密さを追体験し、あたかも死を見取ったたような心持ちで、私はそっと本を閉じ、明治の文学者の冥福を祈った。


病床に縛り付けられた彼の精神は窮屈であったろう、しかしだからこそ、彼が死の直前まで書き続けたこの127回の連載は輝き続けているのである。
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