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自称小説サイト管理人七貴の、書評とだらだらとした日常を送り続けるブログ。
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今日2回目の更新。
周防正行監督の映画『それでもボクはやってない』
割引券があったんで行ってきた。

これはおもしろい。
いや、面白いというと不謹慎か。
痴漢冤罪という、固くて地味な題材ながら、実に考えさせられる映画であり、変なハリウッド映画より満足度が高い。

映画にはそんなに詳しくない私だが、それだからこそ周防監督のすごさを思いしった。

映画は主人公の青年が警察署で取り調べられる場面から始まる。
唐突にである。訳も分からず連れてこられたという様子の主人公に対し、観客も状況が良く分からないまま始まってしまい、同じく混乱する。

おまえは痴漢をしたんだという決めつけで始まる激しい取調べ、既に犯人扱いで認めない主人公をおかしな目で見る刑事。

この否が応でも進む状況に巻き込まれた主人公に、背景も分からず進む映画を見る観客はすんなりと感情移入する。

留置所の仕組みを新入りの主人公(と観客)に丁寧に教えてくれる常連らしき妙な男、示談を勧める当番弁護士、認めない主人公をふてぶてしい容疑者と思って恫喝する検事と、事態は進行しつつも逮捕から起訴までの流れはしっかりと説明されていく。

地獄に仏とばかりにようやく弁護士が現れるが、ここでも懇切丁寧に取調べや裁判に関する解説が織り込まれる。この下りも得てすれば説明ばかりの中だるみになってしまうが、何も分からない主人公の視点から見ている観客は引き込まれるばかりだ。

ここまでくれば周防監督の手腕にまんまと引き込まれたも同然だ。
気づけば、観客はこの痴漢冤罪裁判の傍聴席に座らされている。


映画の中でのセリフにもあるが、痴漢冤罪裁判には日本の裁判制度の問題点が凝縮されている。
決め付けて取調べをする刑事や検察、有罪率99.9%の刑事裁判。痴漢冤罪はどの男性にも起こりえることだけに本当におそろしい。

もちろん、痴漢は許されざる犯罪として描かれている。痴漢を憎む社会の背景には、被害者が犯人の手を勇気を振り絞って掴まねばならない痴漢事件の実情があり、その影に、膨大な数の痴漢被害者が泣き寝入りしている告発されない事件があるのだ。

公判は淡々と進む。登場人物の服装が半そでになり、長袖になり、また春がやってくる。映画には描かれない主人公や仲間たちの生活も考えると本当に苦しい。

この映画には主人公を救い出す凄腕の弁護士も、正義を信じる検事も、情に厚い裁判官も出てはこない。
法廷ものを期待した人は裏切られるだろう。

そして、胸のすくような大団円もない。
そこにいるのはただ、日常を奪われた――我々だったかもしれない、一人の市民なのだ。

映画が終わってもすぐには立ち上がれなかった。
日本の裁判の実情をここまで描いた本作は冤罪や裁判なんて関係ないと思っている人こそ見るべき映画だ。
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2006/12/26 高畑京一郎『タイム・リープ あしたはきのう』 時間移動ものの傑作。

先日読んでプロットの精密さに感動した『タイム・リープ』の高畑京一郎の小説。

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以下、感想
西澤保彦のチョーモンインシリーズ第7弾。

チョーモンインシリーズとは、中学生のような容姿に、みつあみ髪、レトロな羽織袴姿という、超能力者問題秘密対策委員会(通称チョーモンイン)の出張相談員(見習い)の神麻嗣子(かんおみ つぎこ)を中心とする超能力ミステリシリーズである。

扱われるのはテレポーテーション、サイコキネシス、念写、などなど超能力を使った犯罪たち。さまざまなツールと頭脳を使って超能力者たちの犯罪を暴き、補導するのが神麻さんの仕事なのである。

こんなSFっぽい設定ながら、内容はほのぼの。ちっちゃくてかわいらしい神麻さんと、美人の女性刑事の能解匡緒(のけ まさお)、ミステリ作家の保科匡緒(ほしな まさお・男性)の3人による、和気あいあいとしたまったり推理が楽しいシリーズになっている。

本作、『生贄を抱く夜』はこれまでのシリーズと少し違い、3人が一堂に会することはなく、サブキャラクターの神余響子(かなまり きょうこ)(作衣姿の少女・嗣子の同僚)がメインの話も含まれている。

いつもは語り部となる保科はほとんど出ずに、事件の関係者の視点から物語が語られている点で、作者があとがきで述べているように番外編といった装いになっている。


そういうこともあってか、シリーズのファンである私には少し不満の多い作品集だった。

3人のにぎやかな掛け合いが無いのが寂しいだけでなく、収録された7本が少々ミステリとしてのカタルシスが無かったのが問題。

表題作の「生贄を抱く夜」は超能力犯罪の被害者の視点から事件を描いている点でこれまでにない趣向でおもしろかったが、プロットが少々強引で穴があり、それを人物の特異な性格にこじつけている印象があって、スマートな話ではなかった。

登場人物の設定をあり得ないほどに強烈な性格にして、ミステリのプロットに組み込むという手法は、西澤得意のものだが、この手の展開は数回やるとオチがすぐ読めるようになる。

その点で、「一本気心中」「もつれて消える」と3本も同じ傾向の作品が並んでしまったのは失敗だったかと。

「動く刺青」は「生贄」と並んで今回ましな部類に入るが、主人公を念写で女の部屋を覗くおじさんにしたのが裏目に出た。おじさんが部外者過ぎて超能力を使ったトリックがどうも不発になっているような。

「殺し合い」はミステリ的な要素がほとんど無く、個人的には成立していないと思う。そのくせ後味も悪くて評価できない。

「共喰い」も同上。この展開はどうなるんだろうと思わせたのはいいが、ネタを生かしきれなかった格好。尻すぼみほどがっかりすることは無い。

「情熱と無駄の間」もミステリではないが、ミステリにならないならいっそのこと遊んでしまえという魂胆か。あきれながらも、はじけっぷりがいいので、読後感がよく、これが最後になって助かった形。


こうして振り返ってみると、やはり短編はもうマンネリでネタも出尽くした感がある。ファンとしてはそれでも3人の会話が読めればまだ満足できたと思っただけに残念だ。
最新刊の「ソフトタッチ・オペレーション」はまだ読んでないが、短編集と聞いているので少し不安。

今年は久しぶりに書き下ろしのノンシリーズの大長編が出るとの話。
楽しみにしたい。
 あけました。おめでとうございました。
 もはや白々しいばかりの挨拶ですが、気にしないでください。
怒涛の年末年始と卒論提出が終わり、ようやく通常モードに復帰できそうです。


 さて、2006年度『このミステリーがすごい!』の栄えある1位に輝いたのが本作、『独白するユニバーサル横メルカトル』。

 著者の平山夢明は長らくノンフィクションの恐怖ものの書き手として活躍していた。私も初耳の作家である。

 ダ・ヴィンチ誌での賛否相半ばの書評と、『このミス』の1位という評価に非常に期待していたのだが……
独白するユニバーサル横メルカトル独白するユニバーサル横メルカトル
平山 夢明

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 卒論も年内に目処がつき、ほっと一安心。少し間が開いてしまったが、これが今年最後の更新になりそう。

 知り合いに勧められて母が買った文庫本を、暇だったので手にとって見たところ、引き込まれてつい、最後まで読んでしまった。

手紙手紙
東野 圭吾

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以下、ネタばれなし

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七貴
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自己紹介:
残念ながら、紹介するほど珍しい人間でもなく、
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二十台の男。弱小小説サイトの管理人です。

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 解体諸因(西澤保彦)
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 東京タワー オカンとボクと、時々、オトン(リリー・フランキー)
 独白するユニバーサル横メルカトル(平山夢明)
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 人のセックスを笑うな(山崎ナオコーラ)
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