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自称小説サイト管理人七貴の、書評とだらだらとした日常を送り続けるブログ。
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 あけました。おめでとうございました。
 もはや白々しいばかりの挨拶ですが、気にしないでください。
怒涛の年末年始と卒論提出が終わり、ようやく通常モードに復帰できそうです。


 さて、2006年度『このミステリーがすごい!』の栄えある1位に輝いたのが本作、『独白するユニバーサル横メルカトル』。

 著者の平山夢明は長らくノンフィクションの恐怖ものの書き手として活躍していた。私も初耳の作家である。

 ダ・ヴィンチ誌での賛否相半ばの書評と、『このミス』の1位という評価に非常に期待していたのだが……
独白するユニバーサル横メルカトル独白するユニバーサル横メルカトル
平山 夢明

光文社 2006-08-22
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 まず、ざっくりと全体の感想を述べよう。

 一言。グロい!

 徹頭徹尾グロテスク。この本を言い表すとしたら、「この世の闇と汚物と悪意と内臓と蛆を混ぜ合わせて、煮詰めたものに痰を吐きかけたような」と形容したい。これが決して悪意を込めていない、私の素の評価であることから、内容はどうか察して欲しい。

 それでも最後まで読めたのは間違いなく刺激的であったからだ。
 ホラー小説は基本的に忌避して読まないタチなので、珍しいこともあったと思うが、嫌だ嫌だと思いつつも読み進めずにはいられなかったという事実は認めていい。

 合うか合わないかはあるだろうが、この抗いがたい魅力は確かなものだ。

 一つ難をいうなら、場面転換や状況説明がすこし拙いかな、と思った。時々読み返さないと意味が分からずつまずくことがあった。(単に私の理解が弱いせいかもしれませんが)

 ……でも、この作品集で『このミス』1位は無いかなというのが正直な感想だ。
 
 ミステリ的な要素があるとしたら「Ω(オメガ)の聖餐」と「卵男(エッグマン)」だが、確かに面白いんだが、ミステリとしてロジック、トリックがどうこうというレベルではない。表題作にも期待していたのだが、どうにも。

以下、簡単にコメント

「C10H14N2(ニコチン)と少年――乞食と老婆」
 一見穏やかで、だれもがニコニコしているような平和な町の話。
 童話のようなタッチから、不意に世界の姿が反転するような歪んだ悪意の発露が恐怖を抱かせる。

「Ω(オメガ)の聖餐」
 学者崩れの主人公が引き受けた仕事の内容とは……。
 表題にもある「Ω」の存在感が圧倒的な一作。読んでる間は嫌悪感をこらえながらだったが、読み終わってみると、読後感の悪さもあってオメガが心にどっかりと居座って離れない。オメガが決してグロテスクなだけの存在ではないところが強烈で面白い。最後もひねりがあってよし。

「無垢の祈り」
 主人公の少女ふみは学校にも家庭にも居場所が無い。社会に嫌われ蹂躙され、生きている。そんな中、近所で怪力の殺人鬼が事件を次々に起こす。ふみは興味を抱き……。
 悲惨。
 最初っから最後までふみは救われない。あまりにも過酷なので、読んでる最中、私も彼女が救われるようにずっと祈りながら読んでいた。最後に訪れたものは、終わりなのか、始まりなのか、救いなのか……。

「オペラントの肖像」
 人間はあやまつ存在である、という思想から全ての人間が「条件付け」によって行動を管理されるようになった近未来。
 読んでいて、独特のガンアクションが有名なさるSF映画が思い浮かんだが、心理学を生かした設定が面白いのでまあ、あえて不問としておく。
 オチは……読めてしまったんだよなあ。オチをかんぐるのはミステリ読みの悪癖だな。

「卵男(エッグマン)」
 この作品はとある理由からあらすじは省く。
 「オペラント」が某SF映画で、こちらは某サスペンス映画。多分読めばすぐ分かる。設定を生かしつつ、アンドロイドという道具をつかってストーリーに仕掛けを施している。
 すまん、これもオチが読めた。もうひとひねり欲しかったのが本音。オチが少し弱い気がする。

「すさまじき熱帯」
 親父のドブロクの口車に乗せられてジャングルの奥地に一仕事しにきた主人公が見たものとは……。
 まー、ひどいジャングルだ。南米と東南アジアとアフリカをごっちゃにした中学生の妄想みたいなジャングルだ。
 展開がすごすぎてホラーなのかギャグなのかもう混沌としている。突き抜け具合がすごいので、えぐいながらも少し笑ってしまった。

「独白するユニバーサル横メルカトル」
 地図帳の独白という形式の変わった小説。ストーリー自体は読み返してみると結構浅いのに、語り口が変わっているせいで面白い。地図帳が軽妙に語り、主の犯罪を見つめるという設定が独特の輝きを放っている。しかし、惜しい。中盤まではわくわくしながら読んでいたのだが、後半すこしぞんざいな印象。設定や伏線が活かし切れてない点ですごく惜しい気がする。

「怪物のような顔(フェース)の女と溶けた時計のような頭(おつむ)の男」
 MCは拷問を職業とする男。MCはココというあらゆるサドプレイによって化け物のような顔になってしまった女に拷問を加えることになったが……。
 拷問シーンがどぎつい。「Ω」「熱帯」ときて、もう何がきても大丈夫と思っていたのが運の尽き。本当の地獄は最後に待っていた。
 夢のシーンも何度か差し込まれるのだが、起きて拷問地獄、眠って悪夢の地獄という、いやなサンドイッチ重ねになっていて、辛かった。
 それでも、MCとココの秘密が少しずつ明らかになるのが気になって最後まで読んで、いや、読まされてしまう。ホント、嫌な作家だな(褒め言葉)


 んーやっぱり、このミス1位は納得いかないものがあるな。強烈で妖しい魅力を放つ本ではあるけど、ミステリーとしては弱いし、人に勧めるかって言うと、やっぱり躊躇するタイプの作品だ。

 これだけ言っても怖いものが見たいという方ならどうぞ読んでください。
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