岡嶋二人『99％の誘拐』

旧日記の2006年3月27日より
岡嶋二人の『99％の誘拐』の書評です。

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岡嶋二人は徳山諄一と井上泉（井上夢人）の二人による合作のペンネーム。
1989年を最後にコンビを解消している……だそうです。岡嶋二人の作品は初見でした。

簡単にあらすじを。

癌で死の床にある男が最後に書き残した息子へ当てた手記。そこには8年前、息子の命と引き換えに男の夢を奪った誘拐事件の一部始終が書かれていた。
そしてさらに12年後、空前絶後のハイテク誘拐が発生する。一切の痕跡を残さず、パソコンを使って要求を出す犯人。彼は20年前の誘拐事件をなぞるように次々と要求を出し……。


ミステリというよりは、犯罪小説。警察とコンピュータ技術者対犯人の息詰まる戦いがとにかく面白い。

コンピュータ技術や環境は発表当時（1988年）のものだが、まったく古さが感じられなく新鮮。

犯人の完璧すぎる計画に驚かされる。ちなみに犯人はたった一人。
この作品は最初から最後までネタばれ厳禁なのですごさを説明するのが難しいですね。

さて、誘拐は非常にハイリスクな犯罪です。
誘拐の手順は細心の注意が必要とされ、長期に渡る監禁は被害者だけでなく、犯人にも危険度が高い。
電話、ファックスは発信源が特定されやすく、手紙も筆跡や、印刷字体、インクにより非常に痕跡を残しやすい。
一番難しいのは身代金の受け渡しである。現金にしろ、物品にしろ、受け取りには絶対に姿を現さなければならないからだ。
もし、仮に身代金をうまく手に入れたとして、札は番号が控えられているし、物品は換金で足がつく。

こう考えてみると、誘拐は、日本では非常に高いリスクが高いことがわかると思います。

その誘拐にあえて挑戦する！そこに意味があると思います。
この作品の犯人は天才的発想と、それを実行する行動力、そして賭けに成功するだけの運に恵まれた人物です。

時代性うんぬんを抜いてあえて批判を加えさせていただくと、これだけ事件自体がおもしろいのに、人物の意思が希薄なのが残念。２０年前の事件の関係者や、犯人との会話なんかも、もうすこし心情を書き込めたはず。しかし、それすら瑣末なことに思えてくる出来のよさでもあります。

その犯罪の全貌と結末をぜひ見てみてください。