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自称小説サイト管理人七貴の、書評とだらだらとした日常を送り続けるブログ。
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列車の中で読んでいた本のもう一冊。
サークルの後輩に借りて積んでいた本。
やはり、列車は読書がすすむ。

名探偵はもういない名探偵はもういない
霧舎 巧

講談社 2006-04-07
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霧舎巧の本を読むのは、『ドッペルゲンガー宮』以来になる。

 
小学四年生の義弟敬二を連れ、ドライブ旅行に出かけた犯罪学者木岬(きみさき)研吾は、雪崩により、山中のペンションに足止めされる。
 そこには、秘密を抱えた宿泊客たちが集まっていた。
 そして、動き出す木岬を待っていたように起こる連続殺人事件。「名探偵」は真相へたどり着くことが出来るのか。


霧舎の本を読むのは2冊目。『ドッペル~』でも感じたのだが、霧舎はどうにも人物を描くのが下手だと思う。

犯罪学者の木岬は、その抱えている背景ゆえに、素直な人物ではないわけだが、それにしても、犯罪学者のディティールであるとか、文化人気取りの口調だとかが私には違和感があって、最初の数章で何度本を閉じたか分からない。

弟の敬二もあまりにステレオタイプの子どもで、読んでいてこちらも違和感があった。どういう風かと説明するなら、「小五郎や警察にヒントを与えようとする時のコナン演技」みたいな。
ああいう、わざと子どもぶるような態度が非常にいらいらした。
いまどきこんな子居ないって。

ストーリーのアクセントに、ロマンスを入れているのだが、これも外し気味。作者の盛り上げようとする意図は分かるが、登場人物の盛り上がりに感情移入できないのは少々寒い。

だが、これは本格ミステリ作品である。やはり、ミステリ部分に注目してみよう。

舞台設定はベーシック。雪の山荘、妖しげな宿泊客、クローズド・サークル。どれも定番である。
この作品はトリックではなく、ロジックタイプのミステリであるが、ちゃんとヒントと伏線がしっかりと張られていて、論理的に推理も組まれている。事件発生後、中盤以降の捜査と推理の過程も丁寧に追われているので、ミステリとしてはなかなか上質。

〈霧舎学園シリーズ〉など、キャラもの、イロモノミステリ作家と思われがちな霧舎だが、ミステリ作家としての地力は十分で、本作も本格の精神に忠実な作品に仕上がっている。


しかし、この『名探偵はもういない』、ただミステリじゃ終わらないのです。

この辺からネタばれにせず話をするのが難しいのだが、――が――しまうとか、探偵役が実は――だとか、そのうえ――が――だったりと、とにかく展開がすごい。
いろいろな意味ですごい。
どっちかっていうと、アレな意味ですごい。

この作品を楽しんでもらうため、伏字にせざるを得ないが、ミステリファンとして、褒めたらいいのか怒ったらいいのかちょっと私には判断しかねている。

ただ、読後感はそんなに悪くなかったということはお伝えしておく。

この、数々の隠し玉によって、読者を混乱させているので、ロジック部分は正統な本格ミステリでありながら、イロモノに仕上がっている。
むしろ、この作品の真価は、「アレ」をやってしまったことに尽きる。


ただ、この仕掛けの功罪についてはいろいろと言っておきたい事もある。

一つはミステリファンとして、アレについての見解なのだが、これはひとまず置いておく。

もう一つは、ストーリー的な問題。

この「仕掛け」は3段階になっていて、第1幕、第2幕、第3幕と対応しているのだが、これにより、物語の中心となる人物がずれてしまっている。

「仕掛け」の性質上しかたないわけだが、このスポットが当たる人物が変化することで、軸がぶれてしまい、どうにもストーリーに一貫性が感じられない。

本来縦軸になるはずの、過去の事件と登場人物たちの人間ドラマが「仕掛け」により分断されてしまっているので、どうもオチが弱くなってしまっている。

「仕掛け」の面白さは評価できるが、それにより、作品のおもしろさが損なわれてしまっているのは非常に残念。


ネタばれをしないで論じるのが非常に難しいので、以下、ネタばれありで。


























第1幕の中心人物、木岬は、扱い方からほぼ探偵となるべき人物だと読者は思う。
山荘の女主人の心の傷になっている、過去の事件と因縁があり、ふたりの間にロマンスが芽生え、彼は犯罪学者から、彼女を救う名探偵になると誓う……

……わけなのだが、第2幕の開始直後にあっさりと死体で発見される。
これで、まず、読者は裏切られるわけだ。でも、重要そうな人物があっさりと退場することはミステリにおいてはよくある手でもある。

しかし、次は予想外だ。山荘の宿泊客がエラリーの父、リチャード・クイーンで、エラリーが名探偵として登場してくる。
ヒントがあったからって、いくらなんでもクイーン親子が現代日本の栃木県の山荘に現れるとはまさか思わないわな。
それをパロディではなく、真剣に書いているというのも驚き。

クイーン親子については、そこそこうまく描写できているようにおもう。
エラリーの子どものような好奇心と謎に対しての〈信仰〉とか、リチャードのエラリーへの気遣いのセリフなどはミステリファンとして面白かった。

だが、これもブラフ。3幕に、このクイーン親子が偽者だったことが明かされる。

いやはや、ミステリの神々を恐れないのか、霧舎巧。

この、名探偵の偽者を堂々と出すという禁じ手中の禁じ手を出したことは、様々批判が出てると思うが、度胸だけは褒めていい。
これはミステリファンであればあるほどだまされる。

この3段階での「名探偵」の「退場」がこの小説の肝だったのだ。


個人的には、クイーンの偽者を出したとしても、木岬は退場させるべきではなかった思う。

アウトローな犯罪学者がロマンスにより、名探偵になろうとする。
起こる殺人事件。
そこに現れた有名なクイーン親子。
推理対決により、最後にはクイーン親子が偽者だと見破る。
事件の決着と、ロマンス、犯罪学者からの脱皮……

こうすれば、「仕掛け」を生かしたまま、木岬の心理的成長を縦軸にストーリーをまとめられたんじゃないかと個人的に妄想する。
もちろん、これだと、ミステリ的にも、インパクト的にも少し弱くなってしまう。

だが、無いものねだりだと思ってもこの終わり方は、締りが悪い。

または、エラリーを最後まで本物として使用するか。
それくらいの開き直りでもよかったんじゃないだろうか。


いやいや、エラリーを最後に偽者にしてしまったことこそが、霧舎のミステリ作家として、ミステリファンとしての、最後の良心だったのだろう。

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