忍者ブログ
自称小説サイト管理人七貴の、書評とだらだらとした日常を送り続けるブログ。
[121]  [120]  [119]  [118]  [117]  [116]  [115]  [114]  [113]  [112]  [111
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

どっかの普通の人間には興味のない女子生徒が憂鬱するくらいの世の中なのだし、ペンギンが憂鬱したっていいじゃないか(そういう話ではありません)。

何年か前話題になった本で、タイトルが印象的だったので気になっていたこの本。図書館でふと思い出したので借りてみた。

ペンギンの憂鬱ペンギンの憂鬱
アンドレイ・クルコフ 沼野 恭子

新潮社 2004-09-29
売り上げランキング : 84648

Amazonで詳しく見る
by G-Tools



時は90年代、場所はウクライナの首都キエフ。売れない小説家ヴィクトルはペンギンのミーシャと細々と暮らしていた。

なぜペンギンと同居しているかというと、キエフの動物園は動物たちにエサを与えられなくなり、市民に引き取り手を募ったからだ。
ミーシャは憂鬱症を患っている。いつも物憂げに部屋の中を歩き回っている。

ふとしたことから新聞社に伝手ができたヴィクトルはある仕事を請け負うようになる。それは、著名人が死んだ時に掲載する追悼記事を書き溜めるというものだった。

この仕事を気に入るヴィクトルだったが、死亡記事を書いた著名人が次々と亡くなるようになり、ヴィクトルの周囲に不穏な影がちらつき始める……。




以下、感想

正直に言ってしまえばタイトルの勝利だ。
発表時のタイトルは『局外者の死』
ヨーロッパで人気を博した後に『氷上のピクニック』に変えられている。
まあ、このタイトルでは日本ではとても手にとってもらえなかっただろうと私も思う。

主題としては生者の追悼記事を書く作家を取り巻く不条理な現実のお話なのだが、ここにペンギンを入れたのがこの本のミソである。

ペンギンのミーシャは犬のようにすり寄ったり、吠えたり、尻尾を振るわけもなく、オウムほどうるさくもない。猫ほど愛らしさを振りまかないが、しかし恩知らずでもない。
悩み多いヴィクトルの傍らにいるミーシャの憂鬱がものすごくかわいらしい。

漠然と不安を抱き、苦悩する小説家と物憂げなペンギンという組み合わせが、この作品の沈鬱だが暖かく、不条理であるけど愛しく感じる、なんとも不思議な雰囲気を作り上げている。


ひっそりと暮らしてきた独身男とペンギンの元に、人が集ってくる。
気のいい警察官の男、謎の男から預かった4歳の女の子。

序盤の独身男二人と幼女とペンギンという組み合わせが奇妙でおかしくて、妙に愛らしい。

警察官の姪っ子であるベビーシッターが登場し、ますます擬似家族的な暖かさを持っていくヴィクトルのマンション。確かな幸せをヴィクトルはかみ締める。

しかし、彼の知らないところで事態は進行していた。
追悼記事の需要は日に日に増し、それに伴って妖しげな人物や事件が起こり始め、事態を理解できないままにヴィクトルの幸せを形作ってきたものは静かに崩壊を始める。

最後に至るまでヴィクトルと読者は、何が起こっていたのか完全に知ることが出来ない。
ヴィクトルの書いてきた追悼記事が何の意味を持っていたか?
誰が、何のために、そしてなぜヴィクトルは舞台を降ろされねばならなかったのか?

南極からウクライナへ連れてこられ、動物園の仲間たちと別れ、マンションで一人“不条理な”境遇を憂うペンギンと、その傍らで社会の“不条理”に翻弄される何も知らされることのない追悼記事作家……

二人の不条理への憂鬱が胸に響く。
こうした小説は私には珍しかったので面白く読めた。



ペンギンのミーシャがとにかく可愛い。
PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
カテゴリー
分類別に記事を見たい
日常:普通の日記で、特にテーマの無いもの。 書評:読んだ本の感想。ミステリー多し。 小説創作:一応ここは創作小説サイトのブログですので。 想うこと:日記よりも堅苦しい話題。 自分のこと:自己紹介文。 ゲーム:おもにコンシュマーゲーム。 その他:分類不能。 旅行:四国旅行紀。
カウンタ
最新CM
最新TB
プロフィール
HN:
七貴
性別:
男性
趣味:
読書 小説執筆
自己紹介:
残念ながら、紹介するほど珍しい人間でもなく、
面白い話が出来るほど特異な人生も送っておりません。

二十台の男。弱小小説サイトの管理人です。

何かの縁です。どうかよろしく。
バーコード
アクセス解析
書評本一覧
五十音順になっています。 タイトルまたは作者名でブログ検索にかけて下さい。

 アクロイド殺人事件(アガサ・クリスティ)
 生贄を抱く夜(西澤保彦)
 異邦人 fusion(西澤保彦)
 エジプト十字架の謎(エラリー・クイーン)
 江戸川乱歩傑作選(江戸川乱歩)

 解体諸因(西澤保彦)
 彼女が死んだ夜(西澤保彦)
 99%の誘拐(岡嶋二人)
 黄金色の祈り(西澤保彦)
 クビキリサイクル(西尾維新)
 九マイルは遠すぎる(ハリィ・ケメルマン)
 極限推理コロシアム(矢野龍王)
 皇国の守護者(佐藤大輔)

 西城秀樹のおかげです(森奈津子)
 十角館の殺人(綾辻行人)
 小生物語(乙一)
 涼宮ハルヒの憂鬱(谷川流)
 全てがFになる(森博嗣)

 タイム・リープ あしたはきのう(高畑京一郎)  ダブルキャスト(高畑京一郎)
 手紙(東野圭吾)
 天帝妖狐(乙一)
 DDD(1)(奈須きのこ)
 電脳娼婦(森奈津子)
 東京タワー オカンとボクと、時々、オトン(リリー・フランキー)
 独白するユニバーサル横メルカトル(平山夢明)
 ドグラ・マグラ(夢野久作)

 夏の夜会(西澤保彦)

 麦酒の家の冒険(西澤保彦)
 人のセックスを笑うな(山崎ナオコーラ)
 美女と野球(リリー・フランキー)
 病牀六尺(正岡子規)
 富嶽百景(太宰治)
 平面いぬ。(乙一)
 ペンギン革命(筑波さくら)
 坊っちゃん(夏目漱石)

 マリア様がみてる 仮面のアクトレス(今野緒雪)
 マリア様がみてる 大きな扉 小さな鍵(今野緒雪)
 マリア様がみてる クリスクロス(今野緒雪)
 戻り川心中(連城三紀彦)
 名探偵はもういない(霧舎巧)

 宵闇眩燈草紙(八房龍之助)
 妖奇切断譜(貫井徳郎)

ブログ内検索
忍者ブログ [PR]